本編
朝5時半、台湾の空気は想像以上に冷たかった。
「寒い……」
思わず口から漏れた独り言が、白く濁って消えていく。昨夜の野宿は、正直に言って失敗だった。海沿いの風を甘く見ていた。寝袋の耐寒温度は8度。十分だと思っていたけれど、湿り気を帯びた海風は容赦なく体温を奪っていく。結局、持ってきた上着をすべて着込み、縮こまって朝を待った。
でも、この「失敗」して成長していかないと。予定調和じゃないからこそ、次に食べる一杯の温かさが身に染みる。
夜明けの湯気と、パクチーの洗礼
まだ街が半分眠っている6時過ぎ。駅前で、湯気を上げる屋台を見つけた。迷わず注文した温かい麺。運ばれてきた瞬間、パクチーの香りが鼻をくすぐる。
「あ、パクチー入っちゃったか……」
苦笑いしながらも、一口。一瞬、辛さが喉を突いたけれど、混ぜて馴染ませれば絶妙なバランスだ。冷え切った胃袋に熱いスープが流れ込み、ようやく「今日」が始まった実感が湧いてくる。
台湾のコンビニは、日本のそれと驚くほど似ている。セブンイレブンの棚に並ぶ品揃えを見ていると、ここが異国であることを一瞬忘れてしまいそうになる。でも、一歩外に出ればスクーターの群れと、スクーターの足元で器用にバランスを取る犬の姿。このギャップがたまらなく愛おしい。
「ほぼ平坦」という名の罠を越えて
「ナビではほぼ平坦って書いてあったんだけどな……」
台中への道中、目の前に現れたのは、見上げるような激坂だった。自転チャリのペダルが鉛のように重い。家畜の匂いが混じった熱い空気を切り裂きながら、汗だくで坂を登る。
途中、YouTubeやブログで予習していた「野犬」への恐怖が頭をよぎる。自撮り棒を武器代わりに構えつつ進むけれど、幸いにも出会ったのは木の上で寛ぐ猿たちだった。
15年前、北海道をバイクで一周した時は、写真はあっても動画はなかった。今、こうして動画を回し、当時の感情をそのまま記録できる。10年後、20年後の自分が見返した時、この「坂道のきつさ」や「トウモロコシの意外な味」は、どんな解釈に変わっているだろうか。楽しみだ
台中の洗練と、歴史を刻むスイーツ
たどり着いた台中は、やはり「住みやすさNo.1」と言われるだけあって、街の空気がどこか軽やかだ。
訪れたのは、かつての眼科をリノベーションした「宮原眼科」。重厚な建築の中に一歩踏み入れると、そこは魔法学校のような図書室の世界が広がっていた。選ぶのが困難なほど種類豊富なアイスクリーム。チョコレートとチーズケーキをトッピングし、贅沢に頬張る。
さっきまでの激坂の苦しみは、この一口で完全に上書きされた。
旅の終わりに:記録すること、生きること
台中の夜市を歩きながら、ふと思う。
国内・海外ホテル格安予約のアゴダスマホ一台あれば、言葉が通じなくても現地の人とコミュニケーションが取れる。Google翻訳越しに教えてもらったおすすめの店、道端で声をかけてくれた人の笑顔。デジタルは、旅を効率化するだけじゃない。人と人を繋ぐ、温かいツールだ。
旅は、いつも計画通りにはいかない。 野宿に失敗し、坂道に喘ぎ、カメラのストラップが壊れる。 けれど、その一つひとつの「ノイズ」が、記事に深みを与え、人生の解像度を上げてくれる。
さて、明日はどんな風が吹くだろうか。 PCを開き、この熱気が冷めないうちに次の構成を練ることにしよう。

